ここでは「からだのゆがみ」について解説していきます。
これって姿勢となんか関係あるの?
「からだのゆがみ」は「からだのバランスの崩れ」を意味する言葉です。
つまり、悪い姿勢もからだのゆがみの一つなのです。ですから知っておいて損はありません。
なるほど。でも「からだのゆがみ」と言われると、なんか漠然としてわかりずらいな。
ゆがみをいくつかに分けて考えると、ぐっとイメージしやすくなりますよ。
からだのゆがみは三つに分類する事ができます。一つは悪い姿勢です。それ以外に二つあるのです。
からだのゆがみは三種類
「からだのゆがみ」は、基本的には「からだのバランスの崩れた状態」を意味する言葉です。そして大別すると、からだのゆがみは三つあると私は考えています。
一つは、悪い姿勢です。悪い姿勢は正しい姿勢と比べてバランスの崩れた状態であるのは言うまでもありません。
そして悪い姿勢以外のゆがみは二つあります。
それは「左右のゆがみ」と「前後のゆがみ」です※1。
”左右”と”前後”とは、からだを見る方向を示しています。
からだを正面から見たゆがみ ⇒ 左右のゆがみ
からだを側面から見たゆがみ ⇒ 前後のゆがみ
このように見る方向で分ける理由は、それぞれ性質に大きな違いがあるからです。合わせて、立体的なものを平面で考えられるようになるメリットもあります。
姿勢と同様これら二つのゆがみは目で見る事で確認する事ができます。まずは、この左右・前後のゆがみをそれぞれ個別に解説していきましょう。
左右のゆがみ
最初は正面から見たゆがみ、「左右のゆがみ」から見ていきましょう。良く知られている例では「顔が傾いている」「肩が下がっている」「骨盤が傾いている」などがあります。
つまり「左右のゆがみ」とは、からだを正面から見た時に明らかな左右差を見て取れる状態の事です。
左右のゆがみの典型的なサインには以下のようなものがあります。
- 肩の高さ・骨盤の高さが左右違う。
- 頭が傾いている。
- 座る時に足を組まないと安定しない。
- 靴の擦れ方が左右違う。
上記の例は、多くの方から聞かれますので、これを読んでいるみなさんにも覚えがあるかもしれません。上記に該当しなくても、鏡で自分を正面から見て、明らかに左右に違いのある場合は、左右のゆがみのある可能性は高いと考えていいでしょう。
左右のゆがみはストレスをかたよらせる
通常、左右のゆがみは見た目の問題として注目されますが、本当の問題は別にあります。
それは、左右のゆがみがあると、ストレスがかたよるという問題です。
それの何が問題なのか、以下のようなモデルで考えてみます。
- 値にして10のストレスがからだにかかるとする。
- ストレスの値が 5 を超えると症状が発症する。
以上のようなモデルで、左右のゆがみのない場合とある場合を考えてみましょう。
まずは、ゆがみのないケースです。左右のゆがみがない場合、からだにかかるストレスは左右均一に分散されるはずです。
すると上図のように、一側にかかるストレスは10の半分で5となります。「ストレスが5を超えると発症する」が条件でしたから、左右それぞれ「症状なし」という結果になります。
左ストレス値「5」=症状なし
右ストレス値「5」=症状なし
次に、ゆがみのあるケースを考えてみましょう。
仮に、ゆがみにより1割だけ右にストレスがかたよったとしましょう。
計算すると、ストレス値は右6・左4となります。左の値は4ですから問題ありませんが、右の値は5を超えていますので、症状が発症する結果になります。
左ストレス値「4」=症状なし
右ストレス値「6」=症状あり
このように全体としては問題のないストレスでも、片側にかたよる事で症状として現れるほどのストレスになる場合があるのです。
又、このことから、左右のゆがみによる症状は、かならず左右どちらか一側のみにだけ発症する事もわかります。
「右ばかり腰痛になる」や「肩こりはいつも左のみ」などのよくある症状は、この左右のゆがみが原因になっている場合が多いのです。
左右のゆがみの発生する原因
では、何が原因となって左右のゆがみは発生するのでしょうか。わかりやすい原因では以下のようなものがあります。
- 座る時にいつも足を組む。
- 片足重心で立っている事が多い。
- 長時間座っていると、だらしのない座り方になってしまう。
これら原因に共通しているのは、からだの使い方に左右差が大きい事、そしてその状態が一定時間維持されている点です。
つまり、左右の筋肉の働きが異なる状態が一定時間続くと、その状態が疲労や緊張として保持されて、左右のゆがみが生じるのです。
実際、原因としてあげたような事例は、ほとんどの方に覚えがあるはずです。つまり、 多かれ少なかれ「左右のゆがみ」は誰にでもあるものなのです。
そう言える理由の一つが「利き手(ききて)」の存在です。利き手はそうでない側に比べて筋力が強い事が普通です。その為、きき手側にひっぱられるように、からだは少しねじれる傾向があります。
又、からだの構造的な理由による左右のゆがみもあります。代表的な例が心臓の位置によるものです。心臓は左側に位置している為、誰にでも心臓をよけるように上半身がねじれる傾向があります。
このような自然にあるゆがみ程度なら、からだに悪影響になる事はほとんどありません。
つまり左右のゆがみは、健康な人にもある自然なものなのです。その為、極端である場合をのぞいて通常あまり心配する必要はありません。
ただし、他の問題が合わさっている場合は事情が異なります。これについては後ほど解説します。
前後のゆがみ
次は、もう一つのゆがみである「前後のゆがみ」を見ていきましょう。
前後のゆがみは、からだを横から見た時のゆがみです。
しかしここで疑問に思う方もいるかもしれません。何故なら、悪い姿勢も横から見たバランスの崩れだからです。しかし、前後のゆがみと悪い姿勢は同じものでありません。明確な違いがあるのです。
その違いを含めて、前後のゆがみを解説していきましょう。
まずは、悪い姿勢と比較しながら、前後のゆがみとは具体的にどのような状態なのか実例で見てみましょう。下の写真をご覧下さい。
上は、左右ともに首猫背(くびねこぜ)姿勢の方の写真です。首猫背とは、首から肩が丸まっている姿勢です。
写真を見ると、両者ともに首から肩が丸くなり、合わせてお腹が突き出ている事がわかります。ぱっと見ただけでは、ほとんど同じに見えるかかもれしません。
とは言ってもわかりずらいですから、背中に線を引いてわかりやすくしてみます。
上は、さきほどの写真に背中の曲がり方を示す赤線を付け加えたものです。
首から肩にかけては、変形の度合いも含め両者にほとんど違いはありません。しかし、腰からお尻にかけてを注目して見てると、右の前後のゆがみのある方は、腰の跳ね上がりの程度が大きい事がわかります。
さらにわかりやすくする為に、写真から線だけ取り出してみましょう。
上図は、背中の形を示した線のみを取り出して、背中の丸まり具合(図中A)と腰の反り具合(図中B)を角度として示しています。
ゆがみのない左の方は、背中の丸まり具合(A)と腰の反り具合(B)の向かい合う角度がほとんど同じです。これは、上半身と下半身がお互いのバランスをとるように変形している事を示しています。このおかげで悪い姿勢でも一程度の安定性を保持する事ができているのです。
しかし、ゆがみのある右の方は、腰の反り具合(B)の角度が浅く、向かい合うAの角度と異なっています。これが前後のゆがみのある状態です。
つまり、悪い姿勢がさらに不安定になっている状態、それが前後にゆがんだ状態なのです。
言葉で説明するより、実際に目で見た方が前後のゆがみはわかりやすいです。姿勢全体を見た時、明らかに目立つ部位があれば、それが前後のゆがみのある場所だからです。
それを理解した上で、もう一度上の写真を見てみてください。ゆがみのある右の方は、姿勢全体で見た時に、突き出たおしりが目立つ事がおわかりになるでしょうか。この「突き出たおしりだけ目立つ」は、典型的な前後のゆがみの一例です。
これ以外にも、「突き出たあごだけが目立つ」「背中の一部の突出だけが目立つ」などがあります。
又、誰にでも少なからず自然に存在する左右のゆがみとは異なり、前後のゆがみは健康な人にはみられないゆがみである点も特徴です。
前後のゆがみはストレスを強める
前後のゆがみは、ゆがみのある部位のストレスを強めるように働きます。
その為、悪い姿勢や左右のゆがみと比べて強い症状を引き起こす原因になります。 その中でも特に関係するのが腰痛です。下のグラフをご覧ください。
グラフは前後のゆがみと腰痛との関係を示したものです(私の治療室の統計データによる)。
グラフの横軸は前後のゆがみの程度、縦軸は腰痛を訴える人の比率を示しています。前後のゆがみの程度に比例して腰痛の比率も高くなる事がグラフからはっきりわかります。
他にも肩こり・頭痛や生理痛、果ては消化器系の問題に至る多様な症状が、この前後のゆがみと関係している事が私の治療室データからわかっています。
前後のゆがみが発生する理由
このような前後のゆがみはなぜ発生するのでしょうか。
通常ただ悪い姿勢になっただけでは前後のゆがみは発生しません。これは、からだには強力な安定機能が備わっているからです。
例えば、いくら悪い姿勢だからといって直立姿勢をとれない方はいらっしゃらないはずです。これは姿勢が崩れる過程においても、からだに備わる安定機能が働いて、最低限の安定性を保持しながら姿勢が崩れている事を意味します。
つまり前後のゆがみは、このからだの安定機能がうまく機能しない場合に、発生するのではないかと考えられます。
では、どのような場合に、からだの安定機能はうまく機能しなくなるのでしょうか。
よく見られる原因には以下のようなものがあります。
- ケガをした後に残る後遺症によるもの
- 慢性的な痛みを和らげる為の逃避姿勢(とうひしせい)※2によるもの
- 自分の姿勢を強く意識しすぎた事によるもの
1と2は痛みやケガによる一時的な変形が固定してしまう事が原因です。原因が明確ですから、自分の記憶をたどれば何がきっかけだったかわかるかもれしません。
わかりづらいのは、三つ目の「自分の姿勢を強く意識しすぎた事によるもの」でしょう。わかりやすいように、スポーツに例えて考えてみます。
スポーツを行なう時、「うまくやろう」と意識しすぎると、からだのコントロールがうまくいかなくなる事は多くの方が経験的に知っていると思います。この例は、からだのコントールに対する意識の影響のわかりやすい一例です。
通常からだの動作は、意識とは関係ない脳の一部がコントロールしていています。それなのに「うまくやろう」と動作を強く意識してしまうと、からだのコントロールに意識が干渉してしまい、動作そのものが狂ってしまうのです。
そして、姿勢を意識しすぎる事も、これと同様の結果をもたらす場合があります。
つまり、姿勢に対する強い意識が安定機能に干渉して、逆にその働きを阻害してしまう場合があるのです※3。
ゆがみと姿勢との関係
以上、左右と前後のゆがみを個別に解説しました。
それぞれ性質がずいぶん異なるんだね。
その通りです。左右のゆがみは、軽度であれば誰にでもあるゆがみで、体調に合わせて強まったり弱まったりしています。
一方、前後のゆがみは、何らかのきっかけにより発生して、自然に改善する事はまずありません。
この二つのゆがみは、同じ場所に重なって発生する傾向があり※4、そうなるとストレスはさらに強まります。
ひえー、ゆがみが重なる場合もあるのか。
そして、それに悪い姿勢までもが重なると、さらに問題が大きくなるのです。
え? ここで悪い姿勢も出てくるの?
先に解説した二つのゆがみと悪い姿勢の間には深い関係性があります。
悪い姿勢には左右・前後のゆがみを強める働きがあるのです。
まずは下図を見てください。
図は正しい姿勢と悪い姿勢を並べた図です。図中の線は、からだの動きの中心軸を表しています。
左の正しい姿勢では、動きの軸は直線状ですが、右の悪い姿勢はジグザク状になっています。仮にこの軸線上に「ねじる動き」をしたと考えてみましょう。
正しい姿勢は直線状ですから、まんべんなく全体にねじれるでしょう。しかし、悪い姿勢はジグザクですから、ねじれの力はジクザグの頂点部分に集中してしまうはずです。
この事が、悪い姿勢になると、ゆがみが強まりやすい理由です。
つまり、姿勢の崩れが強い部分に、ゆがむ力も集中する為、ゆがみがより強くなってしまうのです。
ですから、姿勢の変形が強い部位ほど、ゆがみが強まりやすい傾向があります。
そしてその逆の場合も同様で、ゆがみのある場所は姿勢が崩れやすい傾向もあるのです。
つまり、二つのゆがみと悪い姿勢は、相互に強めあう傾向があるという事?
その通りです。別の言い方をすれば、悪い姿勢もゆがみの一種ですから、ゆがみはそれぞれ相互に強め合う傾向があるという事ですね。
まとめ
以上、からだのゆがみについて解説しました。少し専門的すぎて難しかったかもしれませんね。
でもなんとなく、からだのゆがみの全体像わかったような気がしたよ。
それで十分ですよ。
大事なのは、悪い姿勢を含めてゆがみにはそれぞれ異なる性質があり、相互に強め合っているという点ですね。
そして多くの場合、悪い姿勢はゆがみの起点となっています。
どういう事?
例えば、背中の丸い猫背になったとします。
背中の丸い部分は、左右のゆがみが強まりやすい場所です。その為ストレスのかたよりが大きくなり、首と肩に症状が発症します。そしてそれが呼び水となり、前後のゆがみが発生して、さらに症状は強くなる・・・と、
このようなケースはさほど珍しくないのです。
悪い姿勢は、ゆがみの根本になりやすいって事か。
しかし逆から考えれば、姿勢矯正さえすればゆがみ全体も改善するとも言えます。実際、姿勢矯正をすると、ゆがみ全体が自然に消滅する場合も多いのです。
ですからゆがみを改善したいならば、まず最初に姿勢矯正をするのがお勧めなのです。
最後にここまでのポイントをまとめます。
- 悪い姿勢も「からだのゆがみ」の一つ
- 悪い姿勢以外にもゆがみには「左右のゆがみ」と「前後のゆがみ」があり、それぞれ性質が異なる。
- 左右のゆがみはストレスを一方に偏らせる事でからだに症状を引き起こす。
- 人間はそもそも左右均一ではないので、軽度の左右のゆがみはあまり気にする必要はない。
- 前後のゆがみはストレスそのものを増大させる。その結果、強い症状を引き起こす場合がある。
- ゆがみは、それぞれ相互に強め合う性質がある。
補足メモ
- ここではからだのゆがみを「全身のバランスの問題」としてのみ考えています。ですから、「顔のゆがみ」や「骨盤のゆがみ」などの個別の要素に関してはもう少し別の捉え方をする必要があります(例えば顔のゆがみには、前後のゆがみは関与しません)。個別のゆがみに関しては別章で解説する予定です。
- からだに強い痛みがあると、少しでも痛みを和らげようと姿勢は自然に変化します。例えばぎっくり腰になると無意識に中腰になってしまう事がよくあります。こういった姿勢を逃避(とうひ)姿勢といいます。 痛みがなくなれば元の姿勢に戻るのですが、痛みが慢性化してしまうと、その逃避姿勢がからだに固定してしまう場合があるのです。
- 仮にその「その姿勢を正そう」という意識が正確なものなら、ゆがむ事はないかもしれません。しかし多くの場合、その姿勢を正す意識そのものが不正確なのです。ですから、よけいにバランスを崩し、その結果、ゆがんでしまうのではないか、と私自身は考えています。
- 補足になりますが、仮に姿勢には問題はなく、ゆがみだけからだにある場合、左右のゆがみと前後のゆがみ、どちらを優先して改善したらよいのでしょうか。2つのゆがみは単独で生じる場合もありますが、大抵はお互い関連しあって併存しています。前後にゆがめば左右のゆがみも強くなり、又は逆に左右がゆがめば前後もゆがみも強まるのです。しかし、優先順位をつけるなら前後のゆがみを先に改善すべきたと言えます。そう言える理由は、前後のゆがみによる症状はより強からというのが一つ。もう一つは、2つのゆがみの性質の差にあります。左右のゆがみは、バイオリズムのようにゆがみの程度が日々変化しています。ですから一時的に悪くなっても、ほっておいたら自然に良くなってしまう事も少なくありません。しかし、前後のゆがみにはそのような事はなく、何らかの治療をしないと改善しません。又、前後のゆがみを改善すると、左右のゆがみも自然に改善してしまう事はありますが、その逆はまずありません。このような性質の違いから、先に前後のゆがみを改善した方が、なにかと合理的なのです。