人間の受けるストレスには二つの種類があります。一つは、「暑い」「寒い」「疲れた」などの肉体にかかるストレス、もう一つは「悲しい」「苦しい」「つらい」などの心理的なストレスです。
近年は衛生環境や労働環境の改善により、肉体的なストレスは減少してきていると思います。
しかしその一方 、IT化や社会の複雑化によって心理的なストレスは増加する一方です。そして実は、心理的なストレスは悪い姿勢になる主要な原因の一つなのです。
心理的なストレスと姿勢との関係性は、心理学の分野では古くから研究されていて、深い関係性が認められるだけでなく、姿勢の変化からストレスの程度もわかるとされています。
実際、私の治療室においても、鬱病などの心理的なストレスに悩まされてい方ほど姿勢の悪い傾向は確かにあります。このように、姿勢には「心を写す鏡」という側面が少なからずあるのです。
そこでここでは、心理的ストレスにより姿勢がどう変化するのかを解説していきます。
内向的な性格は猫背になりやすい
心理的なストレスによる姿勢の変化には、大きく二つのケースがあると私は考えています。その一つが猫背です。
上の模式図をご覧ください。左が正しい姿勢、右が猫背姿勢です。
猫背姿勢はパソコンやスマートフォンに頭から接近するクセなどに代表される日常習慣が原因でなる場合が多いのですが、心理的なストレスが原因でそうなる場合も少なからずあります。
人間は強い心理的なストレスにさらされると、あたかも雷を怖がる子供のように、身を守ろうとして無意識に頭を縮めて肩を丸めた姿勢になる場合があります。これを心理学の世界ではストレス姿勢といいますが、要は猫背と同じ姿勢です。
このような状態が長期化すると、背中は硬く固まり猫背になってしまうというわけです。
このような変化は、小学生高学年〜中学生ぐらいから始まる場合が多いようです。心理的なストレスにさらされやすい時期だからというだけでなく、からだが大きく成長する時期である事も関係していると考えられています※1。
真面目で緊張しやすい性格は胸を張る姿勢になる
上は典型的な胸つき出し姿勢の模式図です。胸つき出し姿勢とは、簡単に言えば胸を張ったまま固まった姿勢の事です。
一見すると悪い姿勢には見えませんが、実際は猫背と変わらず大きく変形した姿勢で、肩こり・頭痛・腰痛、疲れやすさなどの身体的な症状に悩まされやすい姿勢でもあります。
心理的なストレスにより猫背になるのは感覚的にわかりやすいですが、胸を張る姿勢になる事には違和感を感じるかもしれません。
このように同じ心理的ストレスでも、見た目が大きく異なる姿勢になるのは、ストレスに対する対処法の差にあると考えられます。
猫背になりやすい方は、心理的ストレスに対して受け身で対処しようとする傾向があります。しかし、胸を張る姿勢になりやすい方は、ストレスに対して能動的に立ち向かおうとする傾向が強いのです。
例えば、職場や学校でトラブルが発生したとします。このような場合対処法は二つあります。一つは、トラブルが過ぎ去るのを待つ対処法です。このような方は猫背になりやすい傾向があります。
もう一つの方法が、積極的にそのトラブルに立ち向かう方法です。例えば、それを解決する為にスキルを身に着けたり自己をコントロールしてトラブルに立ち向かうような方法です。
このような心理的ストレスと正面からぶつかる対処法は、からだにも強い緊張を強いる事になり、自然と胸を張るクセがついてしまう場合があるのです。このようなケースは性格的に真面目で勤勉である方に多く見られます。
受け身の対処法より良いように思われるかもしれませんが、ストレスに過敏になりやすいだけでなく身体的負担が強い為、様々な症状を併せ持つようになりますから、一概にどちらが良いとは言えません。
以上、心理的なストレスと深く関係している二種類の姿勢を紹介しました。まとめると以下のようになります。
- 心理的なストレスに受け身に対処すると、猫背になりやすい。内向的な方に多い。
- 心理的なストレスに積極的に向き合おうとすると、胸つき出し姿勢(胸を張る姿勢)になりやすい。真面目で勤勉な方に多い。
ちなみに私の治療室では、以前は前者の猫背ケースが多かったのですが、最近は後者の胸つき出し姿勢のケースが多くみられるようになりました。
これは社会環境の変化により、自己の成長に懸命な方が増えている事が一因ではないかと私は考えてます。
心理的ストレスから悪い姿勢になるの防ぐには?
このような心理的ストレスから悪い姿勢になる事を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。
もちろん、直接の原因である心理的ストレスを取り除く事が出来れば一番簡単なのですが、現代社会で生きていく為には多かれ少なかれ心理的なストレスから逃れる事はできません。
そこで、心理的なストレスを無理に取り除こうとせず、あくまでからだの問題として悪い姿勢を捉えて対処するのがお勧めです。
そもそも心理的な問題は、とらえどころがなく何をどうすればよいのかがわかりずらいものです。しかし、あくまでからだの問題としてだけで考えれば、その対処法は明確です。姿勢矯正をすればよいのです。
もちろん、根本的には心理的なストレスを取り除かなければ、再び悪い姿勢にになってしまうかもしません。
しかし、このように体の問題としてだけで姿勢を捉える方法は、大元の「心の問題」の改善にも一定の効果があると私は考えています。
姿勢には明確な「かたち」があり、その改善も明確に認識できる為、かたちのない心理的な問題にも良い影響を与えると考えられるからです。
まとめ
最後にまとめです。
- 心理的なストレスは姿勢に大きな影響を与える。
- 内向的な性格の方は猫背になりやすい。
- 真面目で緊張しやすい性格の方は胸つき出し姿勢(胸を張る姿勢)になりやい。
- 心理的な問題はさておいて、姿勢をからだの問題としてだけで捉えて矯正してしまうのがお勧め。