上の写真は、典型的な胸つき出し姿勢の例です。
背中は丸くないし、悪い姿勢に見えないけど。
確かに見た目は悪くありませんね。でも見た目以外に問題のある姿勢なのです。
胸つき出し姿勢は悪い姿勢の中でも特殊な姿勢です。その理由は、見た目には問題のない姿勢だからです。
「見た目に問題がないなら悪い姿勢じゃないのでは?」と思われるかもしれませんが、見た目以外の点で大きな問題があります。それは、姿勢の中で一番からだの負担が強いという問題です。
胸つき出し姿勢は慢性的な様々な症状に悩まされやすい姿勢です。特に多いのが肩こり・頭痛です。それ以外にも腰痛、息苦しさ、下半身の冷え・むくみ、疲れやすさなど、様々な症状の関係があります。これだけ多くの症状を引き起こす姿勢はこの胸つき出し姿勢だけです。
さらに問題なのは、見た目に問題がないために自分の姿勢の悪い事に気付く事ができない点です。当然、症状の原因が姿勢にあるとは気づく事もない為、いつまでも症状に悩まされ続ける場合が多いのです。
ここではこのやっかいな胸つき出し姿勢について紹介していきます。
胸つき出し姿勢の特徴
胸つき出し姿勢の特徴を一言で言えば「胸を張ったまま固まった姿勢」という事になります。一般的に胸を張る事は「せすじを伸ばす」事と信じられていますが、これは姿勢にまつわる大きな誤解の一つです。
確かに、胸を張ると背すじの伸びたように見えます。しかし、それはあくまで印象だけで、実際は背すじは伸びていないのです。
上図は、肩の丸い猫背の方が胸を張ると背中の形はどのように変化するかを示した図です。
図中の交わる直線の角度は、背中の曲がり具合を示しています。角度に注目すると、左の猫背と右の胸を張った姿勢の間にはほとんど差のない事がわかります。つまり、胸を張った後も背中の曲がり具合そのものは変化していないのです。
実は、胸を張ることとは、背すじの伸ばす動作ではなく「胸を上に突き上げる」動作なのです。
では、胸を張ると背すじが伸びたように見えるのはどうしてでしょうか。
胸を張ると、背中の丸まりが胸の傾きの角度に変換されます。その結果、背中の丸まりは目立たなくなり背すじが伸びているような印象を与えるのです。
胸を張る問題点についての詳しい解説は以下の記事を参考にしてください。
胸を張る事とは、せすじを伸ばす動作ではなく、胸を上に突き上げる動作であるという事は覚えておきましょう。
この事実を前提に、胸つき出し姿勢の特徴を一つづつみていきます。
まっすぐな首・ストレートネック
胸つき出し姿勢の見た目の中で一番わかりやすい特徴はまっすぐな首です。このような状態をストレートネックといいます。ストレートネックになった首は固く緊張して、コリや頭痛の原因になっています。
又、顎が上がる・突き出る変形を伴う場合も良く見られます。ストレートネックに関しては以下の記事を参考にしてください。
突き出た胸(鳩胸)
胸を張ると胴体は水平方向に傾きます。その為、胸は鳩胸状態になります。
いかり肩・まき肩
肩は持ち上がり、いかり肩になります。又、肩全体が前方に移動した(巻き肩)ように見えるようになる場合もあります。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
前傾した足
胸が突きあがる事と、からだは反り返り、足は前傾状態になります。
以上、胸つき出し姿勢の特徴を紹介しました。まとめると以下のようになります。
- まっすぐな首・ストレートネック
- 突き出た胸(鳩胸)
- いかり肩・まき肩(肩が前方に出て見える)
- 前傾した足
胸つき出し姿勢の比率
次は胸つき出し姿勢の比率を見ていきましょう。
上図は当院に来院された方の姿勢の比率を円グラフにしたものです。胸つき出し姿勢は猫背よりは少ない姿勢で、悪い姿勢全体で言えば30%ほどの比率です。しかし、この比率を男女別に見てみると興味深い事がわかります。
上図は先ほどのグラフを男女別に分けたものです。グラフを見ると男性ではわずか7%ですが女性は54%と過半数を占めていて、男女で大きく比率の異なる事がわかります。
このグラフからもわかるように、女性の典型的な悪い姿勢は、胸つき出し姿勢なのです。
このような男女比に多きな差のある理由は、胸つき出し姿勢になる原因と関連があると思われます。次は胸つき出し姿勢になる原因について解説します。
胸つき出し姿勢になる原因
胸つき出し姿勢になってしまうのは、日常的に胸を張り続けてしまうクセが主な原因です。このようなクセは、子供の頃から悪い姿勢に悩んでいた方に多く見られます。
子供の頃から姿勢が悪いと、どうしても家族などの周りの人に姿勢を注意される事が多くなります。大抵その時に言われるのが、「ちゃんと胸をはりなさい」です。子供は素直な為、日常的に胸を張るクセがついてしまう場合がよくあるのです。
もちろん胸を張ってもせすじは伸びません。ただ胸が突きあがるだけです。そしてその結果、胸つき出し姿勢になってしまうのです。
胸つき出し姿勢が女性に多い理由は、女性の方が姿勢の見た目をより気にしやすい傾向があるからだと思われます。
姿勢を正そうと努力したのに、逆に姿勢を悪くしてしまとは・・悲しい。
本当にそうですよね。
胸つき出し姿勢に伴う症状
胸つき出し姿勢は、悪い姿勢の中で一番からだの負担の強い姿勢です。その為、様々な症状と関係していますが、ここでは代表的な症状を見ていきましょう。
ストレートネックは頭痛の原因
首つき出し姿勢になると、首が垂直に変形してストレートネックになる事は先ほど解説しました。ストレートネックは首に大きな負担をかけ、首コリの原因になるだけでなく、頭痛の原因にもなっています。
背中全体が緊張して背部痛・腰痛になる。
今これを読んでいる方は、実際に胸をぐいっと張ってみてください。背中に強い力がかかるのがわかりますか?
実際、胸を突き上げた状態を維持するには、つねに背筋に力をいれる必要があります。なぜなら力を抜くと、すぐに見た目の悪い元の姿勢に戻ってしまうからです。その為、背部痛や腰痛に悩まされやすい傾向があります。
胸つき出し姿勢は、言い換えれば軍隊式の直立不動の姿勢と同様です。ある研究では、軍隊式直立姿勢になると、下半身の筋肉に負担が増大し、体全体のエネルギー消費量は20%アップするという研究結果が出ています。
胸の詰まり感と息苦しさ
胸が突き上がると、胸側の肋骨は上下に圧縮された状態になります(上図参照)。すると胸に詰まり感を感じるようになります。又、呼吸も浅くなり、息苦しさを感じるようになります。
矯正のポイント
ここまでの解説を前提に、胸つき出し姿勢の矯正のポイントを紹介しましょう。
胸つき出し姿勢の主要な変形である反り返った胸を正しい位置に矯正しましょう。こちらで紹介しているエクササイズで矯正が可能です。
胸つき出し姿勢の人には日常的に胸を張る習慣があります。まずはそれに気づいて、可能ならば少しづつ改善しましょう。
胸つき出し姿勢の方には肩が丸まる事を気にして肩甲骨を背中に引きよるクセがある場合がよくあります。しかし、これは姿勢悪化の大きな原因となっています。できるだけ肩に力に入らないよう意識して、呼吸はゆっくり行うようにしましょう。
これら三つのポイントの内、特に重要となるのが、STEP2の胸の張るクセをやめる事です。しかし、胸つき出し姿勢の人が胸を張る事をやめようとすると、必ず背中を丸めているような感覚に陥ります。
そのような時は、下で紹介している正しい姿勢のかたちをイメージして、自分の姿勢と比べてみるとよいでしょう。
又、紹介している矯正エクササイズの最終形は、背筋の伸びた姿勢と同じ状態です。エクササイズの形を鏡で確認しながら、目指す正しい姿勢をイメージするのも良い指標になるでしょう。
まとめ
胸つき出し姿勢は、体の負担の強い悪い姿勢である事がご理解いただけたでしょうか。
姿勢の”悪い”には、見た目と健康の二つの意味があるんだね。
そうです。特に胸を張る弊害については世間でほとんど知られていませんので、ここで覚えていただれば幸いです。
最後にここまでのポイントをまとめます。
- 胸つき出し姿勢はからだに負担という意味で悪い姿勢。
- ストレートネックと反り返った胸が特徴。
- 身体に強い負担をかけて様々な症状と関連している。
- 肩こり・頭痛・背部痛・息苦しさ・胸の詰まり感の症状が特徴的。
- 矯正のポイントは胸を張るクセの改善。