ここでは悪い姿勢と冷え・むくみの関係について解説します。
こういう問題は内臓の働きとかが原因だと思ってたけど、姿勢と関係あるの?
実は深く関係しています。特に下半身に症状が集中している場合はその可能性が高いのです。
悪い姿勢になると様々な症状がからだに現れるようになります。中でも肩こりや腰痛などの筋骨格系の痛みは頻繁に現れる症状です。
一方で「冷え・むくみ」のような症状は、あまり姿勢と関係ないと思われるかもしれません。しかし実は、これらも悪い姿勢になると現れる典型的な症状の一つなのです。
このような一見姿勢と関係ないような症状が現れるのは、悪い姿勢になると血液循環が悪くなる傾向があるからです。
そこでここでは循環機能の低下による症状の代表格、「冷え・むくみ」と悪い姿勢の関係について解説していきましょう。
ここでの記載内容は各種文献と著者の治療室における統計分析に基づいた一定の信頼のおけるものですが、症状の原因は個人により様々です。症状が深刻な場合は、まず最初に専門の医療機関で診断を受けるようにしましょう。
悪い姿勢になると血液循環が悪くなる理由
悪い姿勢になると血液循環が悪くなる要因は、大きく以下の3つにまとめられます。
- 姿勢変化による血管の締め付け
- 腹圧の低下による循環機能低下
- 下半身の血液ポンプ機能が働かなくなる
次にそれぞれ個別に解説していきましょう。
悪い姿勢になると血管が締め付けられる
悪い姿勢になりからだが変形すると、それに合わせて骨の位置関係も変化します。すると部位によっては骨と骨との隙間がわずかに狭くなり、そこに太い血管が通っていると、締め付けられて血液循環が悪くなる場合があるのです。
このような「締め付け」による症状は、ヘルニアのような神経痛の方が有名です。しかし実は、血管の方が神経より締め付けの力に過敏である事がわかっています。その為、神経痛を引き起こさないようなわずかな締め付けでも、循環が滞る場合があるのです。
姿勢変化により血管が締め付けられやすい部位は、からだの末端部である腕と足です。
中でも悪い姿勢により発症しやすいのが、胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)です。
胸郭出口症候群とは、首から肩にかけての血管が締め付けられる事により引き起こされる一連の症状(しびれ・冷え・重だるさなど)の事です。
上図は姿勢変化により腕の血管が締め付けられる様子を示した模式図です。図左は正常な状態を示していて、鎖骨と肋骨の間を腕の血管が通過している事がわかります。
一方図右は、悪い姿勢になる事で鎖骨が下にずれて血管を圧迫している様子を示しています。このような状態になると、腕に流れる血流が減少して、しびれや重だるさなどの様々な症状を引き起こすのです。
腹圧の低下による循環機能の低下
悪い姿勢なると腹圧が低下します。これには悪い姿勢に共通した変形である「全身の反り返り」が関係しています。
上図は、正しい姿勢(図左)と全身の反り返った姿勢(図右)を比較した模式図です。図右は背中が丸く変形した猫背姿勢です。図中の赤線が示すように、正しい姿勢と比べて猫背は全身が反り返っている事がわかります。
このように全身が反り返ると、お腹は前に突き出て、腹筋は上下に引き延ばされた状態になります。その結果、お腹の圧力も低下してしまうのです(下図参照)。
腹圧の低下は、下半身からの血液を心臓に戻す力を弱めるように働く為、下半身を中心に循環機能を低下させる原因になります。
下半身の血液ポンプ機能が低下
悪い姿勢になると下半身全体の筋肉が緊張状態になります。その要因は、先と同様の「全身の反り返り変形」です。
上図は、全身の反り返りによる下半身の筋肉のバランス変化を示しています。赤い部分は筋肉が緊張している部分を示しています。図を見ると、全身が反り返った事で腹筋の力が弱まり、その力を補填する為に下半身全体の筋肉が緊張している事がわかります。
筋肉の緊張は血管を圧迫して循環を低下させますが、問題はそれだけではありません。
下半身の筋肉の緊張は、ふくらはぎにある「血液ポンプ機能」の働きを妨げてしまうのです。
人間は二足で直立する生き物ですから、縦に長い構造をしています。その為、心臓より下にある血液を循環させるには重力に逆う必要があり、より強い循環能力を必要とします。
そこでふくらはぎには循環を補助する血液ポンプ機能が備わっています。ふくらはぎの中を通る血管には弁構造があり、これが筋肉が収縮するたびにポンプのように働いて、血液を心臓に押し戻す働きをしているのです。
しかし、姿勢が悪くなりふくらはぎの筋肉が緊張すると、筋肉の収縮と弛緩のバランスが悪くなり、ポンプ機能がうまく働かなくなります。その結果、下半身全体の循環機能が低下してしまうのです。
悪い姿勢より血液循環が悪くなりやすい部位
以上、悪い姿勢になると血液循環が悪くなる理由について解説しました。
このような循環機能の低下は「冷え・むくみ」はもちろん、手足のしびれなど様々な症状の遠因になっています。
特に悪い姿勢により血液循環が悪くなるのは下半身です。
これは、物理的に循環が滞りやすい部位が下半身である事、合わせて先ほど解説した「腹圧の低下」と「ふくらはぎの血液ポンプ機能の低下」が主に下半身に影響を及ぼすからだと考えられます。
このような事から、むくみ・冷えなどの症状が下半身中心である場合、その原因は悪い姿勢である可能性は高いと考えられるのです。逆に言えば、症状が下半身中心ではない場合は、他の要因によるものである可能性が高いと考えられます。
統計でみる悪い姿勢と冷え・むくみの関係
一般的に「冷え・むくみ」のような症状は、生活習慣やホルモンバランスの崩れ・内臓機能の低下などが原因だと考えられていて、悪い姿勢も原因の一つである事はあまり知られていせん。
実際、どれくらい悪い姿勢が「冷え・むくみ」と関係しているのか正確にはわかりませんが、ここではその関連性を示す根拠の一例として、私の治療室における統計を紹介しておきます。
上のグラフは、「冷え・むくみ」と悪い姿勢との相関関係を示すグラフです。悪い姿勢の程度が横軸、冷え・むくみを訴える人の割合が縦軸です。
図中の横軸には「お腹のつき出し度」とありますが、これは全身の反り返りの程度を示す数字です。ここでは値が大きいほど姿勢の悪い状態だと考えておましょう。
グラフ左端、お腹つき出し度60%以下というのは、姿勢が正常である事を示しています。この時の冷え・むくみを訴えている人は2割以下です。
しかし、グラフ右端、お腹つき出し度90〜100%、つまり姿勢の悪い程度が大きい場合、冷え・むくみを訴える割合は70%近くになる事がわかります。
この統計は私の治療室独自のものですが、悪い姿勢と「冷え・むくみ」の関連性を示す一例にはなっていると思います。
まとめ
以上、悪い姿勢と冷え・むくみとの関係を解説しました。
本当にいろんな症状と悪い姿勢は関係してるんだね。
そうですね。ですから姿勢矯正は健康にとても効果的なんですよ。
気になる人は、ぜひ姿勢矯正にチャレンジしてみよう!!
最後にポイントをまとめます。
- 悪い姿勢になると、下半身を中心に血液循環が悪くなる。
- 姿勢の変形により骨の隙間が狭まり血管が締め付けられて血液循環が低下する場合がある。
- 悪い姿勢により腹圧が低下すると血液循環が悪くなる。
- 悪い姿勢になるとふくらはぎの筋肉が緊張する。その結果、ふくらはぎの血液ポンプ機能が働かなくなり、下半身を中心に血液循環が悪くなる。
- 冷え・むくみの症状が下半身中心である場合は、悪い姿勢との関係が特に疑われる。