自分の姿勢を分析する方法として簡単で便利なのが、重心線(じゅうしんせん)を引く方法です。重心線とは「体重の通り道」を示す簡易的な線です。
言葉から考えると、からだの重心位置を示す線のように思われるかもしれませんが、実際の重心の位置とずれる場合もありますから、ここではあくまで姿勢を分析する為の簡易的な方法だと考えておきましょう。
写真に一本線を引くだけの簡単な重心線ですが、それから多くの事を分析する事ができます。
ここでは重心線の引き方と、重心線を用いた簡単な姿勢の分析法について解説していきます。
姿勢の写真の撮り方
重心線を引くためには、まず最初に自分自身の姿勢の写真を撮らなければいけません。
姿勢を見るのに鏡を見て観察する方法もありますが、目線を鏡に向けた状態では、正確な姿勢はわかりませんし、そもそも線を引いたりするような分析は不可能です。
- 背中のかたちが見えやすいように薄着になる。
- 水平に撮影する。
- 自然体で撮ること。
- 長い髪の毛は結んで、首が見えるように。
- 写真の中心は「おなか」にすること。
- 正確に側面から撮影する。
背中のかたちが見えやすいように薄着になる。
ダボダボした洋服を着て写真をとると、体の正確なラインはわかりません。Tシャツと短パンなどできるだけ薄着で写真をとります。腰のラインを見えやすくするように、裾はズボンに入れましょう。
水平に撮影する。
写真はできるだけ水平に撮影してください。写真に傾きがあると正確な重心線になりません。柱材などがあれば、それを目安に撮影すると良いと思います。
自然体で撮ること。
写真を撮る時に姿勢をあまり意識しないようにしましょう。変に力んだりすると、普段とまったく違う姿勢になってしまいます。シャッターを押す前に、一度深く深呼吸をするのがオススメです。
長い髪の毛は結んで、首が見えるように。
髪の毛に隠れて首から肩のラインが見えなくならないように注意しましょう。髪の長い方は一括りにするか、カメラの反対方向に髪を避けてから撮影しましょう。
写真の中心は「おなか」にすること。
写真の外側はゆがみやすい為、少し離れてお腹を中心に撮影してください。広角レンズは使わないようにしましょう。
正確に側面から撮影する。
できるだけ正確に側面から撮影するようにして下さい。わずかなずれでも、形は大きかわってしまいます(下図参照)。
重心線の引き方
自分の写真が撮影できましたから、次はさっそく重心線を引いてみましょう。引き方は簡単です。耳たぶから下に垂直線を引くだけです。
最近のカメラは全てデジタルカメラですから、写真を印刷せずに画像編集ソフトで直接線を引いたほうが面倒もなくわかりやすいかと思います。
重心線を引くための画像編集ソフトは特に何でも良いのですが、この後別に紹介する姿勢分析には角度を計測する必要のあるものもありますので、オープンソースの学術研究用ソフトウェアであるimageJを使うのもお勧めです。
ImageJ
私もこのソフトを使って様々な計測をしています。
正しい姿勢の重心線
自分の写真に重心線を引いたならば、まずは正しい姿勢の重心線と比較してみましよう。
上図は、正しい姿勢である時の重心線の通り道を男女別に示しています。
正しい姿勢である場合の重心線の通り道は以下のようになります。
耳たぶ → 首の中心 → お腹の中心 → 膝の中心 → くるぶし(やや前方)
それぞれの正確な位置を以下に解説します。
胸側の首のつけねから背中側によこ線を引きます。その線の中心が重心線の通り道です。
腰のもっともくびれた部分から、お腹側によこ線を引きます。その線の中央が重心線の通り道です。腰にくびれがない人は、ズボンのベルト位置を目安によこ線を引きます。
膝こぞうのある高さの幅の中央が重心線の通り道です。
写真からくるぶしが判別できない場合は、足の横幅の中点が重心線の通り道だと考えます。
以上が正しい姿勢である場合の重心線です。自分の重心線と比較してみましょう。
実際、ここで例にあげている写真でも、それぞれ少しズレがありますから、あまり神経質にならずに比較してみてください。
重心線のずれは腰痛・肩こりの原因
正しい姿勢と比較して自分の重心線と大きなずれがあるのならば、それは悪い姿勢である証拠です。
又、重心線のずれている部位は、からだの負担が強まって症状の出やすい部位である事も示しています。
上の図は正しい姿勢と悪い姿勢の重心線を比較した模式図です。図中の赤い垂直線が重心線を示しています。
左の正しい姿勢を見ると、ほぼ背骨にそって重心線が通っています。一方、右の悪い姿勢は所々背骨から重心線がずれている事がわかります。ずれている部位が腰と肩である点も注目してください。
重心線が背骨に沿っていれば、体重の負担は主に骨格にかかる為、疲れにくくリラックスした状態を維持する事ができます。
しかし、悪い姿勢になり重心線が背骨からずれると、骨格ではなく腰や肩の筋肉に体重の負担がかかる事になります。その結果、疲れやすいだけでなく、腰痛や肩こりになりやすくなるのです。
猫背である場合の重心線
重心線のズレを詳しく見ると、どのような悪い姿勢であるかを分析する事もできます。次は悪い姿勢である場合の典型的な重心線の通り方を見ていきましょう。重心線にズレのある方は、それぞれ比較してみてください。
まずは、猫背の場合をみてみましょう。
上の写真は、典型的な猫背の重心線の通り道を示しています。詳しくみていきましょう。
猫背になると肩が丸まり頭は前方に動きます。その為、首の中心より前方に重心線がずれます。
猫背になると背中が丸まり頭が前に突き出るだけでなく、お腹も前に突き出てきます。
頭とお腹が同時に前に突き出る為に、重心線は正しい姿勢と同様にお腹の中心を通ります。お腹の突き出しが強い場合は、やや背中側を通る事もあります。
重心線は膝の中心ではなく、ひざこぞう付近まで前方にずれます。
重心線はくるぶしより前方、つま先付近までずれます。
以上、猫背である時の典型的な重心線の通り道を紹介しました。猫背かどうか見分けるポイントは「重心線が首と下半身で前方にずれている」事です。猫背について詳しくは以下の記事を参考にしてください。
この猫背とほぼ同様の重心線になるのが、腰つき出し姿勢です。ただし腰つき出し姿勢の場合は、お腹を通る重心線がより背中よりになる傾向があります。
胸つき出し姿勢である場合の重心線
次は胸つき出し姿勢です。胸つき出し姿勢とは、胸を張った姿勢のまま固まった姿勢の事です。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
見た目には問題ない姿勢ですが、多くの健康上の問題を抱えている為、悪い姿勢として分類されています。
以下の写真は、胸つき出し姿勢における典型的な重心線通り道を示しています。
それぞれ詳しくみていきましょう。
正しい姿勢と同様に、重心線は首の中心を通ります。これは胸つき出し姿勢にはストレートネック(真っすぐな首の状態)の変形が伴う為です。詳しくは以下の記事を参考にしてください。
胸を張ると、からだは大きく反り返ります。その為、お腹を通る重心線は大きく背中側にずれます。
上の図では膝の後方を重心線が通っていますが、逆にひざこぞう付近まで前にずれる場合もあります。ずれの幅が大きい為、ここは無視してかまいません。
上の図では、くるぶし前方に重心線が通っていますが、つま先付近まで前にずれる場合もよくあります。
胸つき出し姿勢を重心線で見分けるポイントは、「重心線は正しく首の中央を通っているのに、お腹で背中側に大きくずれている」事です。これが合致するならば、胸つき出し姿勢である可能性はかなり高いと言っていいでしょう。
重心線を引くことで発見できる姿勢
ここまで紹介した悪い姿勢は、見た目から悪い姿勢だとわかる姿勢でしたから、ある意味重心線を引かなくても悪い姿勢である事はわかる姿勢でした。
しかし、姿勢の中には重心線を引かないと気づかない悪い姿勢というのもあります。ここではその中の一例を紹介しましょう。
上の写真は、重心線を引かないと、まず気づくことのない悪い姿勢の典型例です。
写真を見ると、首からお腹までは「首の中央→お腹の中央」と正しい姿勢と同じ位置を通っています。背中も特に丸くありませんから、一見すると悪い姿勢には見えないかもしれません。
しかし、下半身を見ると、「膝の前方→くるぶしの前方」と、前方に重心線がずれている事がわかります。
実はこの方は、腰のつけねを中心に反り返る姿勢をしているのです。腰と下半身に大きな負担をかける姿勢なのですが、悪い姿勢である事に本人が気づく事はまずありません。
このように一見悪い姿勢とわからないこのような姿勢も、重心線を引くことができれば、それが悪い姿勢である事を明らかにする事ができるのです。
まとめ
以上、重心線について簡単に紹介しました。
ここまでに紹介した重心線と自分の姿勢の重心線を比較すれば、自分が悪い姿勢なのか、又、どの姿勢に分類されるのかを見分ける事ができるでしょう。
さらに本格的に姿勢を分析するには、線を複数引いて角度を測ったりしないといけないのですが、重心線は一本線を引くだけで多くの情報を得る事ができますので、みなさんも是非活用してみてください。
最後にポイントをまとめます。
- 重心線はからだの体重の通り道を簡易的に示す便利な線。
- 重心線は体重の負担の通り道。重心線が背骨からずれると、腰痛や肩こりをひきおこす。
- 猫背(腰つき出し姿勢)は、首と下半身で重心線が前にずれる。
- 胸つき出し姿勢は、首は中央、お腹で背中側に重心線がずれる。
- 重心線を引かないとわからない悪い姿勢もある。
自分の写真を撮る環境がなく重心線を引く事が難しい方には、チェックテストで姿勢を判別する方法もありますので、以下を参照してみてください。